船乗りと聞けば、『港港に●ンナあり』とか『板子一枚下は地獄』という言葉を思い浮かべます。
しかし、現代の船乗りは、大変な高収入の仕事と言われているのです。
一般的な航海士でも、年収500~800万円の年収は、ごく普通。
日本人の平均年収は400万円前後ですから、船乗りは平均よりも30~100%以上多い年収になります。
そんな高収入の職業なら、
自分も船乗りになってみようか
という人が出てきても、おかしくありません。
そこで今回は、船乗りの年収と、そのなり方(就職する方法)や仕事内容を紹介していきます。
船乗りの年収が凄い!
さっそく船乗りの年収をみていきましょう。
船乗りの給与は階級によって異なる
船乗りには、厳しい階級システムがあり、軍隊と少し似た部分があります。
『船乗り』と一口に言っても、上は船長から下は平の船員まであり、年収には大差がつきます。
船乗りの職種は、大別して
- 船長
- 航海士
- 機関士
- 通信士
- 部員(一般船員)
となり、それぞれ業務内容や航海区域、乗船する船の種類などが異なります。
階級が高くなると給与も高くなり、各種手当が支給されます。
平均的な年収は、
船長:1000万円以上
航海士:500~800万円
機関士:500~800万円
部員(一般船員):200~300万円
あたりです。
船長は、船の最高責任者ですから、ある程度の年齢に達した人が多く、そのため年収も多いのが通常です。
とくに、大型客船の船長となれば、
2000万円~3000万円
に達することもあります。
航海士や機関士、通信士は、軍隊で言う『士官』にあたり、船長に次ぐ年収となっています。
甲板部、機関部などの部員(一般船員)は、士官より安いです。
なお、通信士については、海事衛星通信(インマルサット)などが導入されたことから、現在は専任の通信士を配置する船は、ごく少数となっています。
大半は、通信士の資格を持った船長や航海士が兼任しています。
船乗りの年代別年収
航海士の年収を年代別でみると、
航海士の年代別年収
20代:300~600万円
30代:500~800万円
40代:1000万円以上
となります。
中でも客船の航海士は、高給取りになりますよ。
内航客船(国内就航の客船)でも、平均460万円以上、
外国航路の大型客船の場合は、平均年収800~900万円
にも達します。
ただし外国航路だと、長期間は自宅に戻ることはできませんから、その点はデメリットです。
ちなみに、日本人の年代別平均収入は、以下のような調査結果があります。
日本人の年代別平均収入(転職サイトdodaより)
20代:345万円
30代:442万円
40代:507万円
同年代の平均年収と比べて、航海士の給与が高額なことが分かりますね。
続いて、船乗りの年収の実例を紹介しましょう。
船乗りの年収の実例
23歳(男性)
年収600万円以上700万円未満
21歳(男性)
年収500万円以上600万円未満
31歳(男性)
年収600万円以上700万円未満
31歳(男性)
年収1000万円以上1200万円未満
いずれも日本人の平均年収より多いことがわかりますね。
しかも20~30代の年齢ですから、年齢別でみれば、非常に高い年収と言えます。
年収が高額になる理由としては、
- 危険が伴う
- ある程度の期間は自宅に戻れない
などのデメリットによる見返りでしょうね。
イメージとしては、航空機のパイロットやクルーに近い感じです。
船乗りの仕事内容は?
船乗りの仕事の内容は、職種によって異なります。
船長・航海士
航海士には、
- 船長
- 一等航海士
- 二等航海士
- 三等航海士
があります。
しかし、船員同士の会話では、日本語の名称はあまり使われず、
- キャプテン
- チーフオフィサー
- セカンドオフィサー
- サードフィサー
と呼ばれます。
チーフオフィサーは短縮されて、『チョッサー』と呼ばれることもあります。
仕事は、船の操船がメインです。
ほかにも、航路の決定や、海図の管理なども重要な仕事です。
また、船員への指示管理、荷物の運搬、その他航行に関する、あらゆる指揮も航海士の仕事です。
操船では、とくに航海中の船の位置の把握が重要です。
航海士は、肉眼や、衛星情報やレーダー、星との位置関係などを駆使し、船の現在位置を常に正確に把握しておく必要があります。
航海中は、複数の航海士が乗船し、気象状態の確認と他の船舶との位置の確認を交代制で行っています。
ちなみに、夜間に行う観測の当直時間を通称『ワッチ』と呼び、
『見る』『監視する』
という意味からの呼び名です。
機関士
機関士の仕事は、各種機器の管理と運転です。
船の心臓であるエンジンをはじめ、船を動かすスクリューや、発電機、ボイラーといった機器の運転と保守を行います。
各種機器が、常に安定動作をするように保守することは、安全と安定した航行のために、重要な仕事です。
機関士には、機関長以下、
- 1等機関士(ファーストエンジニア)
- 2等機関士(セカンドエンジニア)
- 3等機関士(サードエンジニア)
があります。
階級によって、担当する仕事も異なります。
機関長は、機関部の最高責任者です。
ある意味、船長に次ぐ地位と言えます。
1等機関士(ファーストエンジニア)
⇒主にエンジン系統を中心としたプロペラ部分など、船を直接動かす役目をしている機器を担当する
2等機関士(セカンドエンジニア)
⇒発電機、操縦機器の保守点検を行う
3等機関士(サードエンジニア)
⇒ボイラー系統を担当し、空調や冷凍器などが正常に機能しているかどうかを常時チェックする
港に停泊中でも、機関士はお休みではありません。
次の航海に向けて、整備や点検、燃料の補充などを行っています。
船員(部員)
オフィサー(幹部船員)だけでなく、一般の仕事をする平船員として、『部員』と呼ばれる船員もいます。
甲板部、機関部、事務部などに分かれて、船長はじめ航海士、機関士などの指示に従い、運航、船体整備、貨物の積み下ろしなどの作業を行います。
船長や機関長、機関士、航海士は、国家資格を持たないと働けませんが、
船員(部員)は、国家資格がなくても働けます。
次に、外航船に乗船した三等航海士の1日を紹介しましょう。
ある航海士の1日より
勤務時間は1日につき、4時間×2回の8時間です。
もちろん、緊急時などには、当直中以外の時間にも働くこともあります。
6:00甲板でラジオ体操
甲板に船員全員が集まり、点呼の後にラジオ体操を行います。
終わると、甲板についた塩分をデッキブラシを使い、真水で洗い落とします。
洗い落としを怠ると、船体が錆びてしまうため、毎日行います。
7:00朝食
8:00当直
この時間帯の当直は、三等航海士が担当することが多いです。
12:00昼食
他の船員と顔を合わせることなり、コミュニケーションの機会でもあります。
13:00休憩
船が停泊している場合には、甲板から釣りを楽しんだり、外出することもできます。
夕食までは、休憩時間になり、自由な時間帯です。
18:00夕食と休憩
20:00当直
経験の浅い三等航海士が、この時間帯に当直を担当することは、理由があります。
三等航海士の監督と教育は、船長や機関長が行います。
経験豊富な人が起きている時間帯だからです。
24:00就寝
航海士のやりがいや魅力とつらいこと
航海士の仕事は、大自然の中で海を相手にする仕事です。
海は、刻々と表情を変え、時には牙を剥いて襲いかかってきます。
そんな海に対して、船長や先輩航海士の指示を受けて戦う事は、一つの試練でもあります。
ただ、人の命を預かっている自覚と誇りをもって仕事ができるのは、とても嬉しいことです。
成し遂げた時には、大きな喜びを味わい、成長を感じることができます。
一方、航海士のつらいことや苦労は、勤務体制です。
出航してしまうと、次に停泊するまで、航海士にとって休む暇はありません。
家族や恋人がいる場合には、長期に会うことができないのです。
勤務は当直制で、交代で勤務することになっています。
しかし天候が荒れた時などは、当直外でも勤務することになります。
眠い時、寒い時には、辛い仕事になるでしょう。
肩章
肩章あるいは袖章とは、船員が肩または袖につける職種や階級を表す印です。
階級は金筋の数で、職種は金筋の間の色で判別できます。
金筋の数と職種・階級 | ||
---|---|---|
金筋の数 | 4本 | 船長・機関長 |
金筋の数 | 3本 | 1等航海士・1等機関士 |
金筋の数 | 2本 | 2等航海士・2等機関士 |
金筋の数 | 1本 | 3等航海士・3等機関士 |
金筋の間の色と職種・階級 | ||
金筋の間の色 | 黒 | 船長・航海士 |
金筋の間の色 | 紫 | 機関長・機関士 |
金筋の間の色 | 緑 | 通信長・通信士 |
金筋の間の色 | 白 | パーサー(事務局長)、事務部職員 |
金筋の間の色 | 赤 | ドクター(船医) |
この金筋の間の色は、黒は海を表し、機関士の紫は油を表すものです。
通信士の緑は陸を、パーサーや事務部職員の白は紙を、医者の赤は血を表しています。
船乗りのなり方と就職
船乗りは、資格が必須ではありません。
甲板部員や機関部員などの部員(平船員)ならば、
特別な資格なしでも、誰でもなれます。
しかし、多くの年収を得ようとするならば、航海士や機関士の資格があったほうが、断然有利になります。
また、国家資格以外にも重要な資質があります。
一つは体力であり、もう一つは意志の強さです。
船乗りは海が荒れた時などには、ゆっくり身体と心を休めることもできません。
体力と精神力は絶対に必要です。
次に、船乗りに必要な国家資格などを詳しく紹介しましょう。
航海士には国家資格が必要
航海士や機関士になるためには、
海技士
という資格が必要です。
海技士の免許は、航行する区域(国内か海外か)や船のトン数、扱う業務などにより、以下にわかれています。
- 海技士(航海)1級~6級
- 海技士(機関)1級~6級
- 海技士(通信)1級~3級
- 海技士(電子通信)1級~4級
外航船員(国際航海を行う船員)になるためには3級の海技士、内航船員(国内航海を行う船員)になるためには4級の海技士を目指します。
受験資格は、
- 18歳以上であること
- (一定期間)船に乗って運航や実習に従事した『乗船履歴』を持つこと
の2つがあります。
乗船履歴は、部員として実務に就いた場合や、学校での乗船実習があります。
なお、一等航海士や二等機関士などの名称は、『職務名』であり、国家資格の海技士とは、まったく別モノです。
海技士国家資格試験の内容は、どのような内容でしょうか?
海技士の国家試験は、年に4回行われています。
内容は、
- 筆記試験
- 口述試験(質疑応答や面接)
- 身体検査(視力、聴力、疾患の有無)
の3つです。
上級になると
口述試験は英語で行う
など、語学力も必要になります。
海技士の資格を取得するために、
船員用の学校や大学に通う
というケースが一般的です。
以下に、航海士になる例を紹介しましょう。
外航船員を目指す場合
外航船員を目指す場合は、
- 中学校卒業後に商船高等専門学校へ進学する
- 高校卒業後に海事系大学へ進学する
この2パターンが一般的です。
商船高等専門学校は、
- 大島商船高等専門学校
- 広島商船高等専門学校
- 弓削商船高等専門学校
- 鳥羽商船高等専門学校
- 富山商船高等専門学校
全国に5校あります。
商船高等専門学校では、
4年6ヵ月の学習と1年間の乗船実習
を行います。
卒業すると、3級海技士の国家試験が筆記試験免除で受験可能です。
海事系大学は、
- 東京海洋大学
- 神戸大学
- 東海大学
などがあります。
海事系大学では、
4年間で6ヵ月間の乗船実習
を行います。
卒業後に、さらに6ヵ月間の乗船実習科を修了することで、3級海技士の国家試験が筆記試験免除で受験可能です。
内航船員を目指す場合
内航船員を目指す場合は、
- 中学校卒業後に海上技術学校(本科)に進学
- 高校卒業後に海上技術短期大学校(専修科)に進学
このいずれかです。
海上技術学校(本科)は3年制で、一般的な高校と同じ位置付けになっています。
卒業後、さらに6ヵ月間の乗船実習科を修了すると、4級海技士の国家試験が筆記試験免除で受験可能です。
海上技術短期大学校(専修科)は、2年制の短期大学と同じ位置付けになっています。
卒業することで、4級海技士の国家試験が筆記試験免除で受験可能です。
専門の学校で学ばない場合
大半の航海士は、専門の学校を卒業し、海技士の資格を取得しています。
甲板部員として実務につくケースもあります。
専門の学校を卒業せず、免許が必要でない船員(部員)として働きながら、乗船履歴を積み、国家試験を受ける資格を取る流れです。
数年も船に乗っていれば、乗船履歴は自然に取得できます。
ただ、受験のための勉強は必要です。
就職
海技士(航海)や海技士(機関)の4級以上の資格を持っていれば、とても就職に有利です。
どの企業も、航海士や機関士は極端な人手不足
に陥っていて、外国人船員を大量に雇用しているからです。
資格不要の部員(平船員)は、小型船では大半が外国人というケースがほとんどです。
40歳前後の人が、海上技術短期大学校に入学して船に就職した例すらあります。
船乗りであれば、40代でも年齢的にも遅すぎることもないのです。
ただ、不規則な勤務や危険を伴う業務です。
体力や精神力を要することから、興味のある人は若いうちに船乗りを目指すのが良いでしょう。
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まとめ
今や船乗りは、代表的な高収入の職業です。
年収1000万円以上も普通で、日本人の平均年収の2倍以上もの年収があるのです。
航海士や機関士などのオフィサー(士官)になるには、専門の学校を卒業し、海技士という厳しい国家試験をパスしなければなりません。
ただ、『部員』と呼ばれる平船員で経歴をつみ、国家試験に合格して航海士などになった例もあります。
船乗りは、体力と精神力を必要とする、大変な仕事です。
その分、高収入と自然を相手にする仕事で、魅力もありますね。
一念発起して、ぜひ船乗りにチャレンジしてみてください。