ゲームのリアルタイムアタックを競うイベントの中でも、とくに大きなイベントが、RTA in Japanです。
あらゆるジャンル、さまざまなゲームでのRTAがおこなわれる、このイベントで『ドラクエ3』の世界新記録が樹立されました。
『ドラクエ3』のRTAも、RTAお馴染みのバグを利用するわけですが、その方法が他のゲームとは一線を画すものになっているのだとか…。
しかも、発売から30年以上が経過した、2020年8月に見つかったばかりのバグ技なのです。
この記事では、『ドラクエ3』のRTA世界記録樹立に使われた電源バグについて、詳細を解説していきます。
『ドラクエ3』のRTA世界記録
RTAの祭典『RTA in Japan2020』は、新型コロナウイルスの影響もあって、オンラインでの開催となりました。
その中で行われたゲームの1つが、『ドラクエ3』です。
そしてめでたいことに、
『ドラクエ3』のRTA世界新記録が樹立されました!
いったい、どのくらいの時間で『ドラクエ3』をクリアしたのでしょうか?
『ドラクエ3』のRTAの世界新記録は…
22分07秒
なんと、30分も経たずに『ドラクエ3』をクリアしてしまうという驚きの速さ!
一体どうやって、『ドラクエ3』をわずか22分でクリアしたのでしょうか?
『ドラクエ3』こと『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』は、1988年発売のファミコン用ソフトです。
つまり、レトロなゲームです。
そしてレトロなゲームにつきものなのが、
バグ
ですよね。
昔のゲームは、今のゲームに比べると、バグの数が多く、多種多様なバグ技が存在しています。
『ドラクエ3』のRTAで使われたのは、数ある『ドラクエ3』バグ技の中でも最新の方法である、
『電源ON/OFFバグ』
と呼ばれるものです。
『ドラクエ3』発売から32年後の2020年になって見つかった技なんですよ。
『ドラクエ3』の電源バグのやり方
『ドラクエ3』の『電源ON/OFFバグ』とは、どうやってやるのでしょうか?
手順を紹介しましょう。
『ドラクエ3』の電源バグのやり方
- 全国各地にいる王様に話しかけてセーブ、冒険を一度終了する
- 「りせっとをおさずに でんげんをきると ぼうけんのしょが きえてしまう ばあいがあります!!」の表示が出た時に、リセットボタンを押しながら電源を切り、すぐに電源を入れる
- 画面がバグるため、その状態でコントローラのボタンをどれか押すとゲームがバグったまま冒険を再開できる
- バグった状態で再び王様と話しセーブし、ゲームを終了
- リセットボタンを2回押すorリセットボタンを押しながら電源を切る
- 電源が落ちたのを確認したら、再び電源を入れる
これで、『ドラクエ3』の電源バグができるようになります。
…が、しかし、この『電源ON/OFFバグ』というバグ技は、簡単にできるものではありません。
なぜなら、
複数の条件によって、できるできない、技を実行した後の結果が異なる
など、環境に左右される要素があまりにも多いからです。
まず、技自体を起こすのに必要な条件となるのが…
- 使う『ドラクエ3』のカセットの厳選
- 使用するゲーム機のロット厳選
です。
『ドラクエ3』のゲームソフトには、いくつかのバージョンがあり、
- つるつるした無印の初期版
- つるつるで刻印の入っているA刻印版
- ザラザラしていて刻印の入っている後期版(最終ROM)
の3つが確認されています。
このうち、『電源ON/OFFバグ』を利用できるのは、
初期版とA刻印版
であり、後期版は『電源ON/OFFバグ』が利用できません。
しかし、同じくRTAで使われる技の1つ、『エンカウント0技』は、後期版でしかできないバグのため、RTAの際は、
初期版のセーブデータを後期版に焼く
という方法まで用いています。
無事に『電源ON/OFFバグ』に対応したソフトを入手しても、さらなる壁が立ちはだかります。
『ドラクエ3』の『電源ON/OFFバグ』で最も苦労するのが、
ゲーム機本体の厳選
ですね。
ゲーム機本体の厳選とは何ぞや?と思う人も多いかもしれません。
実は、『ドラクエ3』の『電源ON/OFFバグ』は、
使う本体によって、できるかできないかが変わってしまう
という、運要素をはらんでいます。
このバグが発見された当初は、ツインファミコンでしかできないと思われていました。
しかし、研究を続けるうちに、
- 赤白ファミコン(初期型ファミコン)
- NEWファミコン(AV仕様)
- ツインファミコンなどの互換機
でも可能なことが判明したのです。
しかし、
製造時のムラによって、ファミコン本体に個体差があるため、バグり方が全く異なる(バグ自体できないものもあり)
ので、狙ったバグ内容を起こすには、全国各地、あらゆる場所にある本体を手に入れてひたすら検証するしかないのです。
要するに本体ガチャをするというわけですね。
今回、世界記録を樹立した人は、RTAのために、
166台の本体でバグを試した
というツワモノです。
この時点で、ドラクエ3のRTAのために、すごくお金がかかっていることがわかりますね。
ちなみに、このバグに対応していない本体だった場合、先述した手順3の時点でフリーズします。
さて、仮にバグを起こせたとしても、RTAの記録を目指そうとする場合、
バグり方をコントロールし、良質なバグり方にする必要が出てきます。
何を言っているのかわからないかもしれませんが、『ドラクエ3』のRTAで最速時間を追い求めようとすると…
- ゾーマの城に行くために必要なアイテム『にじのしずく』を所持している
- キャラクターが高ステータスになっている
- ルーラの域先に、マイラ以外のアレフガルドのどこかが存在している(最良はリムルダール)
などの要素を含んだバグり方が発生しなければいけません。
そこで、バグのコントロール方法として登場し、ネット上で話題を呼んだのが、
ホットプレートを使用して、ファミコン本体を加熱する
という方法です。
ホットプレートでゲーム機を温めるって、やっていることが理解不能ですよね。
本来、食べ物を熱するものであって、ゲーム機を温めるためのものではありません…
※世界記録樹立者がホットプレートを使っていたという話であって、他にはネックウォーマーを使うなどして温度管理をする人もいました。
実は、『ドラクエ3』の電源バグは、
本体性能だけでなく、本体の温度によってバグり方が異なる
という検証結果も出ています。
ファミコン本体のメモリの揮発速度が、温度によって変わるために起きている現象らしく、RTA走者は、
理想のバグり方を生成するために、温度管理までしているんです。
ホットプレートで本体を加熱することには、本体の温度管理という、ちゃんとした意味があるのです。
驚くべきは、今回、世界記録を更新した人は、RTAの温度管理のために、ホットプレートを用意しただけではなく、
- その日の気温に影響されないように、窓を断熱素材にリフォーム
- 室温がRTAに影響しないように、エアコンをカスタマイズ
など、理想のバグり方の再現性を高めるために、家まで改造してしまったのです。
ただ単に本体を166台購入するだけでなく、部屋のリフォームまで…
RTAガチ勢の、並々ならぬ熱意が感じられて、凄いと思う反面、恐怖すら感じますね…。
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まとめ
2020年12月に更新された、『ドラクエ3』のRTA世界最速記録は、
22分07秒
という、とてつもない記録。
そのタイムの樹立に用いられた方法である電源バグこと『電源ON/OFFバグ』は、
- バグができる初期型・A刻印型のソフトを見つける
- ちゃんとしたバグり方をする本体を厳選する本体ガチャ
- バグり方の再現性を高めるために、ホットプレートなどを用いた綿密な温度管理
という、極めて運要素の強いやり方です。
簡単に再現できるものではありません。
普通の人は、真似をしても難しいでしょうね。