プロ野球の新人王は、ある意味で最も貴重なタイトルとも言えます。
長いプロ野球人生の中で1度だけしか獲得権がなく、各リーグ1人ずつしか選ばれません。
その機会を逃してしまったら、もう永遠に獲ることができないのです。
しかし、条件はあっても、成績基準がとくに定められておらず、記者投票であるがために、選出の結果次第で炎上してしまうことも…
当記事では、プロ野球の新人王の資格・条件、さらには過去の新人王で炎上・物議を醸した選出を紹介していきます。
プロ野球・新人王とは?
プロ野球には、タイトルの1つに新人王があります。
厳密には、
『最優秀新人』
という名前の選手表彰です。
良い成績さえ残せば、いつでも取れるタイトルと違い、新人王はプロ野球人生で1度しか狙う機会のないタイトル。
ある意味で、誰でも権利のある年間タイトルや、沢村賞といった表彰よりも貴重なのかもしれません。
そんな新人王ですが、文字通り、
その年の最も優秀な新人選手を表彰する
という内容になっています。
また、記者投票という部分もポイントの1つ。
全国の新聞・通信・放送各社に所属、かつ5年以上プロ野球を担当している記者のみが1人1票の投票
が可能になっています。
記者は、
- その年の新人王資格該当者に投票する
- “該当者なし”
のいずれかの投票をし、一番得票数の多かった人が新人王になります。
しかし、そのプロ野球担当記者による投票という点が、炎上したり、
「いや、さすがにこの年は該当者なしでよかっただろ!」
とプロ野球ファンが疑問を抱いたりする結果になることもあるんです。
さて、新人王という名前だけを見ると、ルーキーのみが対象に思えますが…
実は、プロ野球の新人王の資格・条件は、ルーキーだけではありません。
続いては、新人王の資格や条件をお話していきましょう。
プロ野球・新人王の資格・条件は?
実は、新人王になるための条件は、細かく設定されています。
1年目の選手以外でも、新人王の資格はあるのです!
プロ野球の新人王の資格・条件というのが、以下の通り。
- 海外のプロリーグ経験がない(例外あり)
- 支配下選手に初めて登録されてから5年以内
- 投手として、前年までの1軍の登板イニング数が30イニング以内
- 打者として、前年までの1軍の打席数が60打席以内
この4つが、プロ野球の新人王の資格・条件です。
つまり、年数だけで言うなら、基本的には
5年目までの選手
に資格があるわけですね。
2016年の新人王では、3年目の日本ハム・高梨裕稔投手が受賞したのには、こういった事情があったんです。
また、育成選手は例外なので、下手な話をすると、
育成で5年過ごした後、支配下5年目で新人王を取ると、プロ野球10年目の選手が新人王
ということも…!?
ただ、上記の資格から、さらに条件があります。
それが、
- 投手であれば前年までの登板イニング数が30イニング以内
- 打者であれば前年までの打席が60打席以内
という内容です。
5年目以内の選手で、1軍の試合に1試合登板しただけで2軍落ち、数試合代打で出ただけで2軍落ち…
というような選手に、新人王の資格が残されているのです。
逆に、1度候補として騒がれるようになったら、2度と受賞チャンスはないわけですね。
また、1つ豆知識として、プロリーグでの活動がなければ新人王の対象になるので…
2014年に横浜DeNAでプレーしたユリエスキ・グリエル選手にも新人王の資格があった
ことになります。
キューバリーグは社会主義国家である関係上、アマチュア野球なのでプロリーグ扱いになりません。
日本プロ野球が、グリエル選手にとってのプロリーグ1年目になるのです。
もう1つ、新人王は、
連盟の裁量で特例が認められるケース
もあったりします。
たとえば、メジャーリーグ経験のある選手でも、ドラフト会議経由で入団した場合は新人王の資格が認められます。
元オリックスのマック鈴木さんがその例ですね。
2007年に巨人に育成契約で入団したオビスポ投手が、2009年に新人王の資格を認められた特例ケースもあります。
オビスポ投手は、外国のマイナーリーグ経験があり、本来ならば新人王の資格はありません。
しかし、
即戦力としてではなく将来性を期待されての育成入団という点を考慮し、連盟の裁量で認められた
という経緯があったのです。
何だかややこしいものですね。
以上が、プロ野球の新人王の条件・資格です。
しかし、新人王の資格を満たした選手が、どのくらいの成績を収めれば受賞できるのかという基準は、一切ありません。
それゆえに、記者投票でも投票数がバラけることがあり、その結果、疑問に残る結果が生まれてしまった年もありました。
新人王で疑問や炎上となった選出を紹介
新人王の中でも、物議を醸したり、批判が殺到した選出もいくつかありました。
その例を紹介します。
新人王で疑問や炎上のあった選出12007年セ・リーグ
2007年のセ・リーグの新人王は、
消去法新人王
と呼ばれ、無理に選出する必要はなかったのではないかと言われる年でした。
2007年のセ・リーグ新人王の投票結果は、以下の通り。
上園啓史(阪神) 104
金刃憲人(巨人) 57
該当者なし 38
渡辺亮(阪神) 3
青木高広(広島) 1
飯原誉士(ヤクルト) 1
この年は阪神のルーキー・上園啓史さんが新人王となりました。
しかし、問題はその成績です。
85.2回 8勝5敗 防御率2.42
防御率はそこそこですが、8勝しかしていないのは物足りませんよね。
それ以上に問題なのは、規定投球回に遠く及ばない、たった85イニングしか投げていないという点です。
新人王と言うには、あまりにも微妙な成績なので、上園啓史さんは
『消去法新人王』
と呼ばれるようになりました。
実際、新人王は
該当者なしを選ぶことができ、過去に該当者なしの年は何回かあった
という歴史があります。
新人王に成績の基準はありませんが、規定投球回や規定打席という要素が大きく影響する傾向にある中、上園啓史さんは、
- 2ケタ勝っていない
- 規定投球回にも達していない
この2つの要素が重なり、疑問の残る新人王となってしまったのです。
新人王で疑問や炎上のあった選出22015年パ・リーグ
2015年のパ・リーグ新人王は、
「これなら該当者なしでよかっただろ…」
と言われる選出結果となりました。
そんな、物議を醸した2015年パ・リーグの新人王の結果がこちらです。
有原航平(日本ハム) 110
該当者なし 57
白村明弘(日本ハム) 33
高橋光成(西部) 22
中村奨吾(ロッテ) 5
二保旭 (ソフトバンク) 3
2015年のパ・リーグ新人王は、日本ハムの有原航平投手が受賞しました。
気になる成績はというと…
103.1回 8勝6敗 防御率4.79
防御率は、これまで一番酷かった斎藤昭雄さんを抜いて
歴代ワースト
を更新。
勝ち数も、斎藤昭雄さんと同じ8勝。
該当者なしが2位に来ている時点で、その酷さがよくわかる結果ですよね。
実際、
「これなら該当者なしでよかったのでは?」
と感じた野球ファンは結構いたみたいですよ。
あまり微妙な成績で新人王になってしまうと、新人王という表彰の価値も下がってしまいます。
筆者としても、この年は該当者なしでもよかったですね。
新人王で疑問や炎上のあった選出32017年セ・リーグ
2017年のセ・リーグ新人王は、受賞者の選出ではなく、
2位の結果があまりにもおかしすぎる
として注目された、珍しいケースです。
しかも、批判が殺到して炎上騒ぎになるほど…。
新人王発表前は、
中日・京田陽太選手
横浜DeNA・濱口遥大投手
の一騎打ちになり、接戦になるのではとファンの間では予想されていました。
しかし、蓋を開けてみれば…
京田陽太(中日) 208
大山悠輔(阪神) 49
濱口遥大(横浜) 27
西川龍馬(広島) 1
該当者なし 1
まさかの、大山悠輔選手が2位となったのです。
これには筆者だけでなく、プロ野球ファンも驚きの声が挙がりました。
「京田は納得だけど、どうして規定に大きく足りてない大山が2位なんだ?」
「記者投票って、これデイリーの組織票だろ?」
「無記名投票をやめさせろ」
「濱口の字が難しいから簡単な大山にしたのか?」
など、記者に対する散々な批判が殺到し、炎上しました。
確かに、大山選手の2位というのは、大半が阪神の大本営紙であるデイリーの記者が多数いたのではないかと疑ってしまう結果ですね。
京田選手は規定打席に到達、さらには1度も戦線離脱することがなく1年を通して活躍しました。
成績も、
打率.264、23盗塁で、ルーキーではセ・リーグ歴代2位となる149安打をマークする
など、他の候補に一歩リードしていました。
そしてライバルとされた濱口投手は、規定投球回には到達しなかったものの、
22試合 123.2回 10勝6敗 防御率3.57
など、十分な成績を残したはず…
大山選手よりは、明らかに濱口投手の方が新人王では優位に立っているだろうと思えたのです。
2位になった大山選手はというと…
75試合 198打数47安打 打率.237 本塁打7 出塁率.309
という成績です。
当然ですが、規定打席なんて夢のまた夢レベルに程遠い数字です。
インパクトのある結果を残したわけでもありません。
22試合 123.2回 10勝6敗 防御率3.57
75試合 198打数47安打 打率.237 本塁打7 出塁率.309
この2つを比べると、成績的には明らかに、上の方が新人王に適しているように思えますよね。
これも、
新人王というタイトルが記者投票で、資格以外の基準がないという部分の弊害
だと言えるでしょう。
新人王は、資格こそ決められていますが、沢村賞のように、受賞者の基準となる一定の成績というものはありません。
成績基準がないからこそ、2017年の新人王は、
在阪紙を抱える阪神に組織票が行ってしまうのでは?
とさえ感じられる結果になってしまったのです。
こういった新人王の議論を見るたびに、筆者は思うことがあります。
新人王は投手・野手部門に分けるべき
ということです。
そもそも、新人王の成績基準が決められないのも、新人王が投手・野手ごちゃ混ぜになっているからでしょう。
投手にとっての10勝が、野手にとってのどんな成績に該当するのかなど、比べることは不可能です。
これが投手部門・野手部門に分かれれば、ある程度の基準を定めることもできますし、記者たちも投票がしやすいはず…
基準を設けるのは無理にしても、投手・野手では全く性質が異なるので、せめて部門を分けるべきでは?
そう思わせた、2017年の新人王問題でした。
ちなみに、濱口投手は、連盟から送られる『新人特別賞』という特別表彰を受賞。
この『新人特別賞』は、
最優秀新人に選ばれた選手以外にも、新人王に相応しい選手がいた場合に表彰されることがある賞
なので、
『連盟としても、濱口投手が新人王にふさわしい存在である』
と考えたのでしょう。
ある意味、この結果は野球ファンの意見を形にしたもの…
そして、在版紙の組織票に対するカウンターをかました結果にもなりました。
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まとめ
実は、新人王はルーキーだけが取れる賞ではないんです。
『支配下から5年目以内で一定の打席・投球回以下ならば、誰でも資格がある』
という新人王の条件には、驚いた人も多いのではないでしょうか?
新人王は記者投票なため、2017年のように、在阪紙の組織票を疑う結果が出てしまうこともあります。
成績の基準が設けられていないため、
『消去法新人王』
などという残念な異名が生まれる結果もありました。
こういった問題が起こることもあるので、今後、投手・野手部門に分けたり、記者の氏名公表制にするなどの改革が必要なのではないか…
そんなことを、考えさせられましたね。