『健康で文化的な最低限度の生活』
どこかで聞いたことがあるような…。
そうです。
中学校の社会科(公民)の授業でならっているのです。
日本国憲法の三大原則は、
- 国民主権
- 平和主義
- 基本的人権の尊重
でしたね。
三大原則の中のひとつ『基本的人権の尊重』は、人が生まれながらに持っている自由で、平等に生きる権利を大切にしようという原則です。
この原則の中に『健康で文化的な最低限度の生活』は含まれているのです。
でも、『健康で文化的な最低限度の生活』って、一体どういう生活のことなのか、具体的にイメージできますか?
そこで、今記事では、『健康で文化的な最低限度の生活』の定義や基準について解説していきます。
また、『健康で文化的な最低限度の生活』が、具体的にどのような生活なのか、年収などについても紹介していきます。
『健康で文化的な最低限度の生活』の定義を解説
日本は資本主義のもとで、経済活動をしています。
そのために、どうしても『豊かな人』と『貧しい人』が出てきます。
放っておくと『豊かな人』は、ますます富み、『そうでない人』は貧しくなるばかりの二極化へ。
この二極化を改善するために憲法で国に対して、
「社会的、経済的弱者をせめて『健康で文化的な最低限度の生活』を営めるように努めなさい」
と言っています。
日本国憲法第25条では、
- すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
- 国はすべて生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生向上及び増進に努めなければならない。
と定めているのです。
日本国憲法第25条における『生存権』の保証
1項にある、
『すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。』
この権利のことを
『生存権』
と言います。
社会権の一つである『生存権』は、
人間が人間らしい生活を営むために保証される権利
です。
日本国憲法第25条1項では、
「全ての国民には『生存権』がありますよ。」
と表しているのです。
2項では、
「国は、『生存権』のための社会保障制度や環境整備を実現できるように努力する必要がありますよ。」
と表しています。
生活保護制度や公的年金制度も、この『健康で文化的な最低限度の生活』を保障する制度です。
つまり、日本国憲法第25条の条文では、
全ての国民には『健康で文化的な最低限度の生活』を営む権利があり、国はそれを保証する義務がある
ということを、明確にしています。
しかし、この条文に書かれている『健康で文化的な最低限度の生活』について、
実際の生活の状態や状況などは示されていません。
過去の裁判の事例のよると『健康で文化的な最低限度の生活』は、
文化の発達の程度や一般的な生活状況、財政事情などを考慮した上で考える
との事です。
なので『健康で文化的な最低限度の生活』の意味や内容は、
社会の流れや場所により変化している
と言えるでしょう。
『健康で文化的な最低限度の生活』の基準を解説
国民が『健康で文化的な最低限度の生活』を営めるために、国は3つの政策をとっています。
- 社会保険・・・医療保険、年金など
- 社会福祉・・・児童福祉など
- 公的扶助・・・生活保護など
どれも私達の生活を支えるものです。
健康を守るためや定年後の生活を支えるため、社会的弱者を守るための政策ですね。
この『健康で文化的な最低限度の生活』の基準を考えるものとして、『生活保護』や『年金』があります。
生活するためのお金が支給されるので、基準としてわかりやすいですね。
『最低限度の生活』だけを考えると、衣食住のみが足りていればよいのかもしれません。
しかし、身体の健康や心豊かに暮らすためには、それだけでは生活できないのです。
昔はなかった携帯電話やインターネット、テレビ、エアコンなどは、現代では生活に欠かせない必需品となっています。
このように、『健康で文化的な最低限度の生活』の基準は、時代によって変化しています。
国では、その基準の変化に伴い、
『生活保護』は5年ごと、『年金』では毎年、支給基準を見直ししているのです。
『生活保護』では、所得の低い世帯の生活を維持するために行う支出の額とバランスが取れているかを比べます。
『年金』では、物価や賃金などによって毎年変動する方式(マクロスライド方式)が採用されています。
メモ
マクロスライド方式とは、物価や賃金の上昇率から『スライド調整率』という年金を納める世代の減少と、年金受給者の平均余命の伸びを考えた数字を差し引いて年金額を決める方式です。
このように『健康で文化的な最低限度の生活』の基準は、
低所得世帯の消費支出や社会の物価や賃金の変動
によって決まってくるのです。
生活保護基準と最低生活費
生活保護基準は、『健康で文化的な最低限度の生活』を営むための、厚生労働大臣が定めている具体的な基準です。
生活保護基準によって、『健康で文化的な最低限度の生活』を送るためにかかる費用を、『最低生活費』と言い、厚生労働省が計算します。
- 住んでいる地域
- 世帯人数
- 年齢
などによって、最低生活費は異なります。
その内容は、
- 食費
- 光熱費
- 被服費
- 家賃
- 学用品
- 医療費
- 介護費
- 出産費
- 葬祭費
などです。
ですから、現在の日本で『健康で文化的な最低限度の生活』を送るための金額の水準は、この『最低生活費』になるのです。
『健康で文化的な最低限度の生活』の年収はいくら?
『健康で文化的な最低限度の生活』を営むための『生活保護』や『年金』は、どのくらいなのでしょうか。
まず『年金』から紹介しましょう。
夫が20歳から60歳までの40年間厚生年金・妻は専業主婦の場合
夫・約15万円/月×12ヶ月=約180万円
妻・約5万円/月×12ヶ月=約60万円
夫+妻=約240万円
次に、『生活保護』ではどうでしょうか。
支給額は、住んでいる地域や家族構成によって違ってきますが、主に支払われるのは、
- 食費や光熱費などの『生活扶助』
- 『住宅扶助』
です。
東京都市部30代夫婦+子供1人の場合
約15万円/月+住宅扶助約6万円/月=約21万円/月
約21万円×12ヶ月=約252万円
たしかに医療費の扶助や教育費の扶助などがあるのですが…。
はたして、この年収で『健康で文化的な最低限度の生活』が送れるのでしょうか。
一方、全国各地の労働組合の調査では、『健康で文化的な最低限度の生活』を送るには、
毎月最低でも22万円が必要
という調査結果がでています。
これを年収に換算すると約264万円になりますね。
しかし、この調査の対象になっているのは、25歳独身者ですので、夫婦二人の場合や、子供のいる場合では大きく変わってくるでしょう。
実際には、
独身世帯でも年収約264万円は必要
という調査結果も出ています。
国が考えている『健康で文化的な最低限度の生活』の内容と、私たちの実際の生活イメージには大きな差がありそうです。
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おわりに
『健康で文化的な最低限度の生活』とは、何とも曖昧な定義ですよね。
憲法で、
たったの一行しか書かれていない言葉
ですが、意味や基準については、社会の流れや場所・社会の変化によって変わってくるのです。
『健康で文化的な最低限度の生活』を実現するための年収については、現在は一人一人の生活スタイルが多様化しています。
その中で、国が考える年収の金額と、実際に必要な金額に大きな差が出ているように感じる次第です。